
「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」初の外遊で成果
2025年10月26日、高市早苗首相はマレーシアのクアラルンプールで開催された日本・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議に出席し、東・南シナ海で威圧的行動を強める中国を念頭に、法の支配に基づく国際秩序の重要性を強調した。各国に対し、安全保障やサイバーセキュリティー、人工知能(AI)といった分野での協力強化を約束した。
首相就任後初の外国訪問となった今回の訪問は、高市外交の方向性を示す重要な機会となった。
高市首相のASEAN外交の概要
訪問日程と主要イベント
| 日程 | イベント | 内容 |
|---|---|---|
| 10月25日 | マレーシア到着 | 政府専用機でクアラルンプール到着 |
| 10月26日 | 日・ASEAN首脳会議 | 安全保障・サイバー・AI協力を表明 |
| 10月26日 | AZEC首脳会合 | マレーシアと共同議長を務め、共同声明を発出 |
| 10月26日 | 二国間首脳会談 | マレーシア、フィリピン、オーストラリアの首脳と会談 |
| 10月26日 | 献花・慰霊 | クアラルンプール日本人墓地とマレーシア国家記念碑を訪問 |
高市首相が強調した「FOIPの要」
高市首相は出発前、羽田空港で記者団に「ASEANはインド洋と太平洋の結節点、世界の成長センターで、日本が主導する『自由で開かれたインド太平洋』(FOIP)の要だ」と強調した。
「ASEAN首脳との信頼関係を深め、大きな成果を挙げたい。世界の真ん中で咲き誇る日本外交をしっかりと進めていく」と意欲を示した。
協力強化を表明した3つの重点分野
1. 安全保障協力の深化
中国への対応:
高市首相は東・南シナ海で威圧的行動を強める中国を念頭に、法の支配に基づく国際秩序の重要性を強調した。
基本的価値を共有する東南アジアの同志国との連携を深めたい考えを示した。
| 安全保障の課題 | 日本の対応方針 |
|---|---|
| 南シナ海問題 | 法の支配に基づく国際秩序の維持 |
| 東シナ海情勢 | 同志国との連携強化 |
| 地域安全保障 | FOIP理念の共有と推進 |
| 防衛協力 | 多国間協力機制の深化 |
2. サイバーセキュリティ協力
高市首相は以前からサイバーセキュリティ分野に深い関心を持ち、専門的な知見を有している。
高市首相のサイバーセキュリティへの取り組み:
| 時期 | 役職・活動 | 主な実績 |
|---|---|---|
| 2018年 | 自民党サイバーセキュリティ対策本部長 | 著書『サイバー攻撃から暮らしを守れ!』を出版 |
| 2019年 | 同上 | サイバーセキュリティの国際ルール構築を主導 |
| 2024年 | 経済安全保障相 | セキュリティ・クリアランス新法の詳細制度設計 |
| 2025年 | 内閣総理大臣 | サイバー対処能力強化法案(ACD法案)を閣議決定 |
ASEAN協力における重点項目:
- サイバー攻撃対策の情報交換
- サイバーセキュリティ人材の育成
- 国産セキュリティ技術の共同開発
- 重要インフラのセキュリティ強化
3. AI(人工知能)分野での協力
高市首相は寄稿の中で「AIには経済・社会を大きく変革し発展させる高い潜在力があります。日本は、『安全、安心で信頼できるAI』を推し進め、国際的なAIガバナンスの構築やAIを活用したイノベーションを促進していきます」と表明した。
日ASEAN AI協力の方向性:
| 分野 | 協力内容 |
|---|---|
| AIガバナンス | 国際的なAI規制枠組みの構築 |
| イノベーション | AIを活用した新技術開発の促進 |
| 人材育成 | AI研究者の交流と共同研究 |
| 倫理と安全性 | 信頼できるAIの開発と普及 |
日本とASEANの関係:50年を超える信頼のパートナーシップ
歴史的背景
日本とASEANは、半世紀を越えて、「心と心」の繋がる「信頼のパートナー」としての関係を構築してきた。
2023年12月に採択された日ASEAN50周年共同ビジョンは、世代を超えた人的交流、未来の経済・社会の共創、平和と安定という、パートナーシップの3本の柱を示した。
2025年の歴史的節目
| 記念事項 | 意義 |
|---|---|
| ASEAN共同体発足10周年 | 2015年の共同体発足から10年 |
| ASEAN共同体ビジョン2045発出 | 今後20年の方向性を提示 |
| 東アジアサミット(EAS)発足20周年 | 地域協力枠組みの成熟 |
東ティモールのASEAN加盟
東ティモールは10月26日、ASEAN首脳会議で正式にASEANに加盟した。新規加盟は1999年のカンボジア以来26年ぶりで、東南アジアの全11カ国がASEANのメンバーとなった。
日本も東ティモールの加盟を後押ししてきた。国際協力機構(JICA)を通じて道路・橋などのインフラ整備や人材の育成、ASEAN加盟に必要な文書の翻訳といった多岐にわたる援助を行った。
高市首相の外交方針:「新技術立国」とASEAN
デジタルとグリーンの戦略的投資
高市首相は「日本とASEANが未来の経済・社会を共創し、共に成長するためには、デジタルやグリーンといった新たな分野への戦略的かつ積極的な投資が欠かせません」と述べた。
重点投資分野:
| 分野 | 具体的施策 |
|---|---|
| AI・量子技術 | AI、量子、半導体等の最先端分野で、国際共同研究や研究者の交流を柔軟で重層的に強化 |
| 半導体 | サプライチェーンの強靱化と共同開発 |
| 脱炭素化 | AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)を通じた協力 |
| 科学技術 | 「新技術立国」実現に向けたパートナーシップ |
人的交流の促進
「日本とASEANの信頼関係を支えるのは、世代を超えた人的交流です」として、以下の事業を推進する方針を示した。
主要な交流事業:
- 日本語パートナーズ(約3,000名の実績)
- 「文化のWA」プロジェクト
- 東南アジア青年の船(昨年50周年)
- JENESYS(対日理解促進交流プログラム)
- ASCOJA(ASEAN元日本留学生評議会)支援
高市首相が掲げる経済安全保障とサイバー政策
高市首相は経済安全保障担当大臣としての経験を活かし、ASEAN諸国との連携を重視している。
経済安全保障の3つの柱
| 政策課題 | ASEAN協力の方向性 |
|---|---|
| サプライチェーン強靱化 | 半導体など重要物資の安定供給体制構築 |
| 先端技術管理 | AI・量子技術の適切な管理と共同開発 |
| サイバーセキュリティ | 国産技術の普及と多国間協力 |
サイバー対処能力の強化
高市政権は2025年2月、能動的サイバー防御(ACD)を可能にする「サイバー対処能力強化法案」を閣議決定しており、ASEAN諸国との協力も視野に入れている。
日本のサイバーセキュリティ政策:
- サイバーセキュリティ庁(仮称)の創設検討
- 政府予算の拡充
- サイバーセキュリティ人材の確保
- 国際連携の深化
訪問の成果と今後の展望
高市首相の評価
高市首相は一連の日程を終えた後、記者団に「世界の成長センターでもあるASEAN諸国・同志国との連携強化を確認でき、非常に有意義だった」と振り返った。
次の外交課題
| 日程 | イベント | 重要性 |
|---|---|---|
| 10月27-29日 | トランプ米大統領来日 | 日米同盟強化の試金石 |
| 10月31日〜 | APEC首脳会議(韓国) | 日韓首脳会談の可能性 |
| 11月以降 | G7サミット準備 | 多国間外交の本格化 |
専門家の見解:高市外交の特徴
サイバーセキュリティ重視の背景
高市首相は「サイバー空間を守れない国は、他の何ものも守ることはできません」との持論を持ち、ASEAN諸国との協力を重視している。
同盟国との協力の重要性:
- 同じ価値観を共有する国同士のサイバー同盟
- サイバー攻撃対策の情報交換
- 人材育成に向けた交流
- 相互防衛能力の強化
「鉄の女」としての外交スタイル
高市首相はサッチャー元英首相を敬愛し、強い信念に基づく外交を展開することが予想される。
外交方針の特徴:
- 保守強硬路線と現実的な経済協力のバランス
- 「自由で開かれたインド太平洋」の積極的推進
- 技術と安全保障を一体化した政策
- 同志国との戦略的連携強化
ASEAN諸国の反応と期待
経済協力への期待
ASEAN諸国は日本との経済協力深化に期待を寄せている。特に以下の分野での協力が注目される:
- デジタル経済の発展支援
- グリーンエネルギーへの移行支援
- インフラ整備への投資継続
- 人材育成プログラムの拡充
安全保障面での懸念
一部のASEAN諸国は、日本の対中強硬姿勢が地域の緊張を高めることを懸念している。バランスの取れた外交が求められる。
展望:日ASEAN関係の新たなステージへ
高市首相の初外遊は、日本外交の新たな方向性を示すものとなった。
今後の課題:
| 短期的課題(2025年内) | 中長期的課題(2026年以降) |
|---|---|
| トランプ政権との関係構築 | ASEAN共同体ビジョン2045の実現支援 |
| APEC・G7での存在感発揮 | サイバーセキュリティ協力の制度化 |
| 対中関係のバランス調整 | AI・量子技術の共同開発推進 |
| 防衛費増額への対応 | 「新技術立国」実現に向けた投資 |
成功の鍵:
- ASEAN諸国の多様性への配慮
- 中国との対立激化回避
- 経済協力の実効性確保
- 技術分野でのリーダーシップ発揮
高市早苗首相による初の外国訪問は、「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」の幕開けとなった。サイバーセキュリティ、AI、安全保障の3分野でのASEAN協力強化は、日本の「新技術立国」構想とも連動する戦略的な取り組みである。
今後、トランプ政権との関係構築や中国への対応など、多くの外交課題が待ち受けているが、ASEAN諸国との「信頼のパートナーシップ」を基盤に、高市外交がどのような成果を上げるか注目される。

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