海外投資家による日本株買いが記録的水準に
2025年10月、日本株市場で海外投資家の存在感が一段と高まっています。自民党総裁選を前にした10月第1週には、海外投資家による現物株の買越額が1兆2,398億円に達し、これは2013年4月以来、実に12年半ぶりの高水準となりました。
日本株市場における海外投資家の影響力は年々増大しており、2024年の現物市場において最も売買シェアが高かったのは海外投資家の59.1%でした。先物市場に至っては、その割合はさらに高く75.7%を占めており、日本株の値動きを左右する最大の投資主体となっています。
2025年における海外投資家の動向
年間を通じた投資スタンスの変化
2024年度、海外投資家は現物と先物を合わせて9兆4,807億円という大規模な売り越しを記録しました。これは2015年度以来の大きな売り越し額となり、市場関係者の注目を集めました。
しかし、2025年に入ると状況は一変します。特に春以降、海外投資家は日本株の現物買いを強化しています。2025年4月以降、現物株の買い越しは継続的に続き、一時は7週連続での買い越しを記録するなど、強い買い意欲が示されました。
直近の売買動向(2025年10月時点)
| 期間 | 海外投資家の動向 | 買越額/売越額 |
|---|---|---|
| 10月第1週(9/29-10/3) | 4週ぶりに買い越し | +1兆2,398億円(12年半ぶり高水準) |
| 10月第2週(10/7-11) | 2週連続買い越し | +2,473億円 |
| 9月第4週 | 3週連続売り越し | -5,591億円 |
2025年4月には、海外投資家による現物株の売買代金シェアが70.9%と約2年ぶりの高水準に達しました。これはトランプ大統領の関税政策発動による市場の乱高下が要因で、短期的な値動きを狙う海外ヘッジファンドやCTA(商品投資顧問)が大きな取引を展開したためです。
海外投資家が注目する日本株銘柄
2025年5月以降、海外投資家による大量保有報告書の提出が相次ぎ、外国人投資家が積極的に買い進めた銘柄が明らかになってきました。
海外投資家が大量買いした注目銘柄(2025年)
| 銘柄名 | コード | 年初来騰落率(7月時点) | 主な海外投資家 | 保有割合 |
|---|---|---|---|---|
| 良品計画 | 7453 | +94.9% | キャピタル・リサーチ・アンド・マネージメント | 5.83% |
| IHI | 7013 | +67.1% | ブラックロック・ジャパン他 | 6.19% |
| KOKUSAI ELECTRIC | 6525 | +55.7% | ベイリー・ギフォード他 | 8.23% |
| 三井E&S | 7003 | +54.9% | JPモルガン | – |
無印良品を展開する良品計画は、2025年年初から7月時点までに94%も上昇し、時価総額1兆円以上の大型株で最も上昇率が高い銘柄となりました。海外投資家は、現経営陣のもとでの高収益体質への改善と世界展開の余地を評価しています。
IHIには米国の世界最大の運用会社ブラックロックが大量に株式を取得しました。世界的かつ長期の防衛費増の潮流が追い風となるとみた投資と考えられています。
KOKUSAI ELECTRICには英国のベイリー・ギフォードが投資しており、AI用半導体の製造にも使う同社の成膜技術力を高く評価したものと見られています。
海外投資家の投資スタイルの変化
市場関係者の分析によると、海外投資家の日本株投資スタイルに大きな変化が見られます。
従来は、インデックスやトヨタ自動車のような超有名企業中心の投資が主流でしたが、現在はしっかりとリサーチして優良な銘柄を見つけ、じっくり投資するスタイルに変化しています。日本人投資家が見落としていた成長ストーリーを海外投資家が発掘するケースが増えているのです。
日本株が海外投資家に選ばれる理由
1. 企業改革の進展
東京証券取引所が2023年3月に「資本コストや株価を意識した経営」を企業に要請したことで、日本企業のコーポレートガバナンス改革が加速しています。自社株買いの活発化や配当政策の見直しなど、株主還元の強化が進んでいます。
2. バリュエーションの魅力
グローバル比較で見ると、日本株は依然として割安感があります。ROE(自己資本利益率)の改善が続いており、先進国株式との差が縮小しつつあることも、海外投資家の関心を高めています。
3. 円安メリット
ドル建てTOPIXで見ても日本株は上昇しており、円安に頼らない株価上昇が実現しています。2025年前半は欧州株が強かったものの、年後半には日本株への関心がシフトしています。
4. 自社株買いとTOBの増加
2024年からの累計で、自社株買いは約31兆円規模に達しています。また、TOBも2024年の約5兆円から2025年は約11兆円まで拡大しており、強力な買い需給を形成しています。
個人投資家との対比
海外投資家と対照的な動きを見せているのが個人投資家です。個人投資家は典型的な「逆張り」の傾向を示しており、株価下落局面で買い越し、上昇局面では売り越す動きが目立ちます。
2025年4月第1週に日経平均が大きく下落した際、個人投資家の現物買い越し額は約7,200億円と海外投資家の約6,000億円を上回りました。しかし、その後の上昇局面では売り越しに転じています。
一方、海外投資家は春先の下落時には先物で売りを主導しましたが、その後の上昇局面では現物の買いを強化し、相場の方向性を決定づけています。
海外投資家買いの持続性とリスク
買い継続のカギを握る要因
日本株市場における海外投資家の買いが持続するかどうかは、以下の要因に左右されます。
企業収益の持続的拡大: 企業業績の改善が継続することが最も重要です。
ROEのさらなる拡大: 日本企業のROEが先進国水準に接近し続けることが求められます。
構造改革の成果: コーポレートガバナンス改革や資本効率向上の取り組みが実を結ぶことが期待されています。
注意すべきリスク
FOMO(Fear of Missing Out)の反動: 「買い遅れるな」という心理で買い進んだ資金が、何らかのきっかけで一斉に引き上げられる可能性があります。
裁定取引の解消: 海外投資家が先物の売りに転じた場合、裁定買い取引の解消に伴って現物株に売り圧力が生じることもあります。
グローバルな金融環境の変化: 米国の金融政策や為替動向など、外部環境の変化が海外投資家の投資行動に影響を与える可能性があります。
まとめ:日本株市場の新たな局面
2025年の日本株市場は、海外投資家の積極的な買いによって支えられています。10月第1週の1兆2,398億円という買越額は、海外投資家の日本株への強い関心を如実に示すものです。
企業改革の進展、バリュエーションの魅力、自社株買いの活発化など、構造的な変化が海外投資家を引きつけています。インデックス投資から個別銘柄を精査する投資スタイルへの変化も、日本企業の質的向上を反映したものと言えるでしょう。
ただし、日本株市場の行方は海外投資家の動向に大きく左右される構造が強まっており、その持続性を注視する必要があります。企業の継続的な収益拡大と改革の実行が、海外マネーを呼び込み続けるカギとなるでしょう。

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